- 対数は、複雑な掛け算を、簡単な足し算に変換できます。
- 対数は「大きい値の差は小さく、小さい値の差は大きく」することができます。
- 地震の震度や、音楽のドレミ、酸性アルカリ性のpHにも対数が使われています。
ぽんさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど。
ん?
以前、ぽんさんがAKBのCDの売上予測を、関数を使ってやってたじゃないですか?
私も、なにか面白いことできないかなーと思って、AKBの総選挙の投票数をグラフにしてみたんですよ。
おお、おもしろいね!
こうやって、身近にあふれる数字を、算数や数学で習った知識を使って見える化するのは、とても面白いよね。
はい!これはこれでとても面白いんですが…
なんか、後ろのほうがごちゃっとしちゃうんですよね…
「ごちゃっと」って、どういうこと?
グラフの左側は、差がすごく分かりやすいんです。でも、右側は、棒グラフの長さが全部同じような大きさに見えてしまって…
なんかもう少し見やすくできないかなーって思ってるんですけど。
うーん。
ちょっと貸して。こうしてみたらどうだろう…
〜3分後〜
これでどうだろう?
え!すごい!きちんと差がわかりますね!
どうやったんですか?
「対数」というものを使ったんだよ。
え、「対数」ですか?あのlogの?
そう、底が10の対数を取った。
対数を使うと、「大きい値の差は小さく、小さい値の差は大きく」できるんだ。
このグラフを見ると、獲得した票数が大きい、左側の人たちの差を小さくして、獲得した票数が小さい、右側の人たちの差を大きくしているのが分かる。
あ!確かに。私が作ったグラフより、大きい値の差は小さく、小さい値の差は大きくなってます!
私、対数は学校でひと通り勉強しました。でも、この例みたいに、具体的にどのように使われているのかは全然知らないです。
よーし、じゃあ、対数について、ちょっと学習してみよう!
対数は掛け算を足し算にできる
$$\log_{2}8$$っていくらか分かる?
はい。3です。2を何乗したら8になるでしょうか?って考えるんですよね?
そう、その通り!
$$\log_{a}M=$$($$a$$を何乗したら$$M$$になるか)
(但し、$$a\neq1,a>0,M>0$$)
はい、これは学校で習いました。でもこの対数を使うと、「大きい値の差は小さく、小さい値の差は大きく」することができるんですか?
まあ、その話は後にして、対数にこんな性質があったこと覚えている?
対数の性質
$$\log_{a}MN=\log_{a}M+\log_{a}N$$
はい、これも学校で習いました。
この式の凄いところは、掛け算が足し算になっているところだ。これは、とても素晴らしい事実だ。
確かに、左辺は$$M\times N$$で掛け算の形をしてますけど、右辺は$$\log_{a}M+\log_{a}N$$ですよ。
なんて言ったらわからないですけど、これってほんとにすごいんですか?私には全然すごいと思えなくて…
うん。めちゃくちゃすごい。実はこの発見で、「天文学者の寿命が二倍になった」と言われるぐらい画期的な式なんだ。
掛け算より足し算のほうが簡単なことは、はるかも知ってるよね?
$$1234+5678$$は簡単にできるけど$$1234\times5678$$を計算することはとても難しい。
はい。
だから、もし世界中にある全ての掛け算が、簡単な足し算に変換できたら嬉しいよね?
え、でも、さっきの性質がわかったからって、$$1234\times5678$$が簡単に計算できるようには思いません。logがついてないですし…
例えば、自由自在にlogをつけたり外したりできると考えてみたらどうだろうか。
?
まず、1234と5678にlogをつけて、対数の世界の数に変換しよう。底は10で考えてみる。もちろん、値は$$\log_{10}1234$$と$$\log_{10}5678$$になる。
そして、それらを足し算するんだ。$$\log_{10}1234+\log_{10}5678$$だね。そして、さっき見せた対数の性質から、この結果は$$\log_{10}1234\times 5678$$と等しいことが分かる。
自由自在にlogをつけたり外したりできると考えているので、ここでlogを外して、対数の世界から普通の世界の数に戻す。そうすると$$1234\times 5678$$の値がわかる。
はい、確かに、そうですけど…
自由自在にlogをつけたり外したりするのって、難しくないですか?
それをできるようにしたのが、「常用対数表」というものだ。
この数字が並んでる表ですか?
そう。詳しい見方は省略するけど、これを使えば、好きな数字にlogをつけたり、logを外したりすることができる。
まとめると、こんな感じかな。
あ、なるほど!常用対数表と、対数の性質の2つを利用すれば、普通の世界の掛け算が、対数の世界では足し算にできるんですね?
そう!その通りだよ。
少し昔話をしよう。
天文学者は宇宙を研究する人たちなので、とても大きい数を扱う必要があるよね。なので、今みたいに計算機がなかった時代は、掛け算などの計算をするのが大変だったんだ。
中には、一つの計算をするだけで一生の時間を費やした天文学者がいたと言われているぐらいだ。
そんな中、16世紀の末に、スイスの時計職人であるビュルギや、イギリスの数学者であるネイピアといった人たちが、「対数」を発見した。
さっき見せたように、対数には掛け算を足し算にする、素晴らしい性質があった。でも、その性質は、logを自由自在につけたりけしたりできないと、使い物にならなかった。
それを可能にしたのが、さっき、ぽんさんが見せてくれた「常用対数表」ですね?
その通り。この常用対数表は、1630年ごろに、イギリスの数学者であるブリッグスが発明したと言われている。
これで、誰でも自由自在に数字にlogをつけたり、外したりできるようになった。大きな数の計算に悩まされていた天文学者は、複雑な掛け算が、対数表を使えば簡単な足し算にできることを知って、大喜びしただろう。
こうして、対数の発見によって、天文学者は煩雑な計算の作業から開放され、対数は天文学の進歩に一役買ったというわけだ。
へぇーそんな歴史があったんですね。
でも最近は、どんな複雑な計算でも、コンピュータで一瞬で出来てしまいますよね?
うーん。確かに、今となっては、掛け算を足し算にできるという、対数の性質の恩恵は薄れてしまったかもしれないね。
しかし、それでも対数は現在の社会でも使われている。
ひょっとしてそれが?
そう、それが、一番最初に言っていた、「大きい値の差は小さく、小さい値の差は大きく」するという考え方だ。
大きい値の差は小さく、小さい値の差は大きく
さっきの、AKB総選挙のグラフをもう一度見てみよう。
ぽんさんが作った、対数をとったグラフのほうが、「大きい値の差は小さく、小さい値の差は大きく」なってますよね?
でも、なんで対数をとると、そうなるんですか?
その仕組みは、対数のグラフをみてもらうと分かりやすいだろう。
あ、わかった気がします!
通常の世界では、青い線も赤い線も、同じ1の長さです。
でも、それにlogを付けて、対数の世界に変換すると、赤の長さよりも青の長さのほうが大きくなっています。
ということは、大きい値の差、つまり赤い線は小さくなって、小さい値の差、つまり青い線は大きくなるってことですよね?
そう!完璧だ!
なんだか直感的に分かって気持ちいいです!
ところで、この性質は、他にも使われていたりするんですか?
うーん、そうだな…
例えば、以下の表を見てみよう。
東日本大震災の揺れの大きさの表
※気象庁「平成23年3月 地震・火山月報(防災編)」の各地の計測震度より、適当な条件を満たす加速度を逆算した。
これは、2011年3月に発生した東日本大震災で、各地がどれだけ揺れたのかを表す値だ。
このGalっていうのはなんですか?
Galはガルってよんで、揺れの大きさ(加速度)を表す物理の単位なんだ。日本各地に設置されている震度計が計測しているのが、このGalなんだ。
へーそうなんですね!ガルなんて単位、初めて聞きました。
だよね。でも、このGalという単位の値はとても大切だ。誰もが知ってる、「ある指標」を作るのに使われている。
?
先ほどのGalの数値をグラフにしたものがこれだ。
あ、AKBのグラフと似てる!
そう!揺れの大きい宮城県の2つは、同じ宮城県内なのに、Galでみると200Gal以上も違う。
でも、揺れの小さい地域、例えば、兵庫県と鹿児島県を見てみると、地理的にはすごく離れているのに、たった3Galしか違わない。
グラフを見ても、兵庫県と鹿児島県の揺れの差がわかりにくくて、宮城県の2つの差が目立ちすぎている。
確かに…ここで対数の出番ですね!
そう、このGalの値に対して、10を底にした対数をとってみる。少し処理をするために、対数を取ったものを2倍して、0.94を足す。
そうすると、「大きい値の差は小さく、小さい値の差は大きく」できるんですね!
そう!それをグラフにしたものがこれだ、
おお!確かに分かりやすいです!
縦軸の???は、なんだか分かるかな?
えっと…1から7まであるから…
あ、ひょっとして、「震度」ですか?
そう!正解だ!
実は、震度というのは、震度計が計測した単位Galで表された、揺れの大きさの対数をとったものなんだ。
へぇー!震度が対数だったなんて!驚きです!
人間の感覚は対数的だとよく言われている。なので、揺れの大きさを表す「震度」以外にも、人間の感覚に関係する値は、対数が取られているものが多くある。
感覚…ですか?聴覚とか視覚とかですか?
そう。例えば、音の大きさを表す「db(デジベル)」や、星の明るさを表す「等星」、酸性アルカリ性を表す「pH(ペーハー)」、極めつけは、ピアノの「音階(ドレミ・・・)」も、対数をとったものなんだ。
へぇー!そうだったんですね!
ちなみに、経済学の分野では、ある金額のお金をもらってどれだけ嬉しいかといった「効用」という考え方に対数が使われることもある。それ以外にも、株価の変動を研究するために「対数正規分布」という対数を利用した考え方を利用することもある。
興味があるなら、各自調べてみてほしいな!
日常にもこれだけ対数が使われているんですね!