- 普通の表現では表しにくい大きい数や小さい数を表すとき、指数を使います。
- 指数は、負の数や有理数の範囲まで拡張することができます。
今日、学校で友達と、生まれてから今まで何秒経ったかって計算してたんですよ。
おもしろいことするね。何秒だったの?
私が今17歳だから、17歳×365日×24時間×60分×60秒=536112000秒です!
約5億秒か!凄いね!
俺は今19歳だから、19歳×365日×24時間×60分×60秒=599184000秒だね。
人間の平均寿命を80歳とすると、人は平均で何秒生きるんだろう?
えっと、80歳×365日×24時間×60分×60秒=2522880000秒です!
25億秒!すごい!
じゃあね、人間が誕生したのが約200000年前だよ。
えっ!計算するんですか!?
できる?
えっと、200000年×365日×24時間×60分×60秒=6307200000000秒です!
約6兆秒だね!
すごい!
じゃあ、地球が生まれるのが46億年前!
ひっ…笑
4600000000年×365日×24時間×60分×60秒=145065600000000000秒です…
兆の上って、なんて数えるんでしたっけ?
「京」っていうんだよ。だから、約14京!
すごいですね…
せっかく頑張って計算したんだから、表にしてまとめてみようか。
はい。
〜3分後〜
表にしてみました。こんな感じですか?
うーん、なんか0が多すぎて見難いですね…
じゃあ、指数で表現しよう。指数は授業で習ったよね?
はい!習いました。
例えば、536112000は、だいたい5.36×100000000とおんなじだよね。
100000000は指数を使えば、$$10^8$$とおんなじだ。
だから、536112000は$$5.36\times10^8$$とできるんだ。
あ、なるほど!
そんな感じでまとめていくと、表はこんな感じに書ける。
わ、なんかすっきりしますね!
指数を使えば、どんな大きな数でも、どんな小さな数でも、上手に表現することができるんだ。
-1乗ってなに?
私、中学校で指数を初めて習った時、例えば$$a^b$$だったら、aをb回かけると思ってたんですよ。
中学校で習う指数
$$a^b=\underbrace{a \times \cdots \times a}_{b}$$
でも、高校に入ると$$2^{\frac{1}{2}}$$とか、$$2^{-1}$$とか、指数の部分が自然数じゃないものが出てきました。
なので、ちょっと困惑してるんです。2を-1回かけるって、なんなんですか?
中学の考え方で$$2^{-1}$$を計算する
$$2^{-1}=\underbrace{2 \times \cdots \times 2}_{-1(?)}$$
確かにそうだよね。俺も最初はよくわからなかったよ。
でもこれは、「拡張」という、数学の世界ではすごく大事なことをやってるんだ。
「拡張」ですか?
そう、中学校で習う指数は、最も簡単な「拡張される前」の指数なんだ。
中学校で習う指数では、例えば$$a^b$$だったら、bは絶対に正の整数だった。
はい、そうです。$$2^2$$とか、$$-2^{2}$$とかでした。
その時、こんな法則が成り立つのは分かるかな?
指数法則
b,cが正の整数のとき、
$$a^{b+c}=a^b \times a^c$$
これは、具体的に掛け算する回数を書いてみると分かりやすい。
指数法則
$$\underbrace{a \times \cdots \times a}_{b+c}= \underbrace{(a \times \cdots \times a)}_{b} \times \underbrace{(a \times \cdots \times a)}_{c}$$
あ、わかります!
例えば、aを5回かけるのと、aを3回かけたものと、aを2回かけたものを、かけ合わせたものは同じ、ってことですよね?
そう、でもこれは、中学で習う指数、つまり$$a^b$$のbが、正の整数の時に成り立つ法則だ。
でも、ここで数学者はこう考えるんだ。
この法則を保ったまま、指数を「拡張」できないだろうか。
?
つまり、「正の整数の時に成り立つ法則を保ったまま、負の数や有理数の範囲まで広げることはできないだろうか?」ということだ。
え…なんかすごそうですね…
そこで生まれたのが、高校で習う指数だ。
もし「仮に」、さっき見せた指数法則が負の数にも成り立つとしよう。そうすると、こんなのが成り立つよね。
負の数でも指数法則が成り立つなら
$$a^{1}\times a^{-1}=a^{1+(-1)}=a^{0}=1$$
ここで、$$a^{1}=a$$だから、
$$a\times a^{-1} = 1$$
両辺aで割って、
$$a^{-1} = \frac{1}{a}$$
あ、高校で習う指数が出てきました!
そう!分数の場合でも同じことが言える。
分数でも指数法則が成り立つなら
$$a^{\frac{1}{3}} \times a^{\frac{1}{3}} \times a^{\frac{1}{3}}=a^{\frac{1}{3} + \frac{1}{3}+ \frac{1}{3}}=a^{1}=a$$
3乗してaになる数を考えると、
$$a^{\frac{1}{3}}=\sqrt[3]{a}$$
おお、これも教科書で見たことがあります!
ちょっとまとめるよ。
俺たちは中学校の時、$$a^b$$っていうのは、「aをb回かけた数」と習った。
そしてその時、「指数法則」という法則が成り立つ。
でもここで、数学者はこんな妄想をしたんだ。
もしaを-1回かけたり、aを$$\frac{1}{3}$$回かけることができたら、それはどんな数になるんだろう?
妄想ですか?なんか面白いですね笑
そう、現実の世界では絶対に無理な世界を、数学の世界では実現できるんじゃないかと思って「妄想」したんだ。
そして、「指数法則」をしっかりと保ちつつ、なんとか指数の考え方を、正の整数よりもさらに外側に、ぐいっと「拡張」できないかと考えた。
「拡張」のイメージとしては、こんな感じかな?
その結果が、高校の教科書に載っている指数なんだ。
へぇーなんか凄いです!
数学者って、妄想が好きなんですかね…?
うん。それは俺もすごく思うよ。
数学をやっている人は、何かある考えを思いついた時に、「この考え方をどこか別のところで使えないだろうか?」とか、「この考え方をもっと広げて、色んな物に応用できないだろうか?」とか、妄想するのがすごく得意だ。
でも、適当な妄想は絶対にしない。数学というのは、決められたルールや規則の中で行うゲームだ。
でも、それは逆に、決められた規則やルールに従えば、何をやっても許されるということなんだ。
「aをb回かける」という指数の考え方も、数学者の妄想力を使えば、ある数を-1回かけたり、$$\frac{1}{2}$$回かけるといった、現実では絶対にできないようなことを考えることができる。
この妄想は、俺たちにとってはめちゃくちゃにみえるかもしれない。けど、決して数学者はめちゃくちゃな妄想をしてるわけじゃない。「指数法則」という絶対に守らなければいけないルールの中で、試行錯誤しながら、妄想、つまりは「拡張」してるんだ。
なんだかそう考えると、おもしろそうですね!
ちなみに、この拡張には、さらに続きがある。
え、もっと拡張できるんですか?
そう!有理数の次は何だと思う?
えっと、無理数とかですか?
そう!それがひとつ目の拡張。この拡張には、指数定理だけでは追いつかない。極限という考え方を使って拡張するんだ。
じゃあ、有理数と無理数、つまり実数全体まで拡張できたら、その先は何だろう?
ひょっとして、虚数…?
そう、なんと数学者は、数を虚数乗するということも考えたんだ。この考え方は、大学の数学で勉強するよ。
虚数って、2乗したら-1になる、あのよくわからない数ですよね?
そう、だから、現実では出来ないけど、「2を虚数回かける」という操作が数学では出来てしまうんだ!
数学者の妄想って、すごいですね!