- タワー表記を使えば、大きな数を表すことができます。
- グラハム数は世界一大きな数としてギネスブックに載っています。
以前、数の数え方で、「億」や「兆」よりも大きい「京」という単位があることを教えてもらいました。
ところで、「京」より大きな数の数え方ってあるんですか?
もちろんあるよ!京の次は「垓」だ。
それより大きい数は、以下のように続いていく。
大きな数の数え方
一→十→百→千→万→億→兆→京→垓→杼→穣→溝→澗→正→載→極→恒河沙→阿僧祇→那由他→不可思議→無量大数
「無量大数」って聞いたことあります!
無量大数は、1の後ろに0が68個続く。
だから、100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000だね。
すごい大きいんですね!
もうここまで来ると、現実世界で使われることは無い。
せっかくなので、世界一大きな数のお話をしよう。
恐怖の再帰
ところで、掛け算のルールってしってる?
ルール?ですか?
そう、かけ算をするときに使う決まり事のことだ。数学では「定義」と言ったりもする。
例えば、2×3ってどういう意味?
えっと、2を3回足します。
じゃあ、m×nは?
mをn回足せばいいんですよね?
はるかの掛け算のルール
$$m \times n = \underbrace{m+\cdots+m}_{n}$$
あれ、何か間違ってますか?
いや、あってる。その通りだ。
例えば、2×3を計算してみると、こんな感じになるよね。
$$2 \times 3 = \underbrace{2+\cdots+2}_{3} = 2+2+2=6$$
はい、2を3回足して、6です。
でも、こんなの当たり前ですよね?
うん、そうだけど…
実は、かけ算のルールは、他にもあるんだ!
はるかが言った、さっきのルールを使わずに、こんなルールを使っても、かけ算が計算できる。
ぽんさんの掛け算のルール
$$m \times n = m + m \times (n-1) \\
m \times 1 = m$$
え、これで掛け算が計算できるんですか?
うん。じゃあ、上のルールを「ルール1」、下のルールを「ルール2」として、2×3を計算してみよう。
ホントだ!計算できました。
同じかけ算なのに、ルールがいくつもあるって、なんだか面白いですね!
そうだね!
よく見てみると、はるかの定義では、「かけ算をたし算」に変換している。でも、俺のルールは「かけ算はかけ算」のままだ。
このように、「あるものを、あるもので定義する」ことを、「再帰的な定義」というんだ。
今回のぽんさんの例は、「かけ算をかけ算」で定義しているから、「再帰的」ってことですね!?
そう。再帰というのは、例えば、かけ算を計算しても、再びかけ算に帰ってくる、というイメージかな。
この「再帰的定義」が、大きな数に関係あるんですか?
そうだよ。大きな数を作るのには、基本的にこの「再帰的定義」が用いられる。
例を挙げると、「指数」や「階乗」なども、全て再帰的定義で表現できる。
そうなんですね。指数を使うと、すごく大きな数が表現できるんですよね?
よく知ってるね!その通りで、例えば、最初に話した無量大数はめちゃくちゃ大きいんだけど、指数を使えば$$10^{68}$$と簡単にかける。
0をいっぱい書かなくていいので、簡単ですね!
そうだね!
でも、ここで数学者は「指数でも表現できないほど大きな数」を考えたんだ。
その数は、数学で使われた世界一大きな数として、ギネスブックにも載っている。
ギネスブックに!?それってどれだけ大きいんですか?
気になる?
はい!
じゃあ計算してみよう。
タワー表記
まず、タワー表記というものを考える。
タワーですか?
そう、例えば、指数表記では、数字を右上に小さく書くことで、ある数を表現してきたよね。
でも、今から考える大きな数は、大きすぎて指数では表せない。だから、タワー表記という新しい数の表し方を考える。
このタワー表記には、↑を使うんだ。
なんだかおもしろそうです!
はじめは簡単だ。以下のルールを覚えよう。
タワー表記のルール(1)
$$a \uparrow b=a^{b}$$
どういうことですか?
$$a \uparrow b$$というのは、$$a^{b}$$と全く同じ意味だよ。ということだ。
でもそれじゃ、わざわざ「タワー表記」を考える必要なくないですか?
まあまあ、そのうち分かるよ。
$$3 \uparrow 3$$はいくらかな?
え、指数と同じだから、$$3^3=3 \times 3 \times 3 = 27$$ですよね?
うん!正解!
「矢印1つは指数と同じ」とおぼえておこう!
矢印1つは指数と同じ…
じゃあ次だ。
タワー表記のルール(2)
$$a \uparrow\cdots\uparrow 1=a$$
$$\uparrow\cdots\uparrow$$ってなんですか?
これは、矢印がいくつあっても、と言う意味だ。
「矢印の右が1なら左の数」と覚えよう。
矢印の右が1なら左の数…
じゃあ、$$3 \uparrow\uparrow\uparrow 1$$はいくらかな?
「矢印の右が1なら左の数」だから…
3…ですよね?簡単すぎません?
確かに。まだ簡単だ。
でも、おもしろいのはこれからだよ。
タワー表記のルール(3)
$$a \underbrace{\uparrow\cdots\uparrow}_{n} b = a\underbrace{\uparrow\cdots\uparrow}_{n-1}\{a\underbrace{\uparrow\cdots\uparrow}_{n}(b-1)\}$$
わ、一気にわからないです…
この式は理解できなくてもいいよ。文字がいっぱい使われていて難しいからね。
はい…
でも、理解して欲しいのは、このルールが、俺がさっき紹介した、かけ算のルールとよく似ていることだ。
確かに、bがb-1になったり、nがn-1になったりしてます!
そう、さらに、↑の計算を↑を使って定義している、つまり「再帰的定義」だ。
あ、本当です!再帰的です!
じゃあ実際にちょっと計算してみよう。
3↑3はいくらかわかる?矢印1つだ。
「矢印1つは指数と同じ」なので、$$3^3=27$$です!
おお!正解だ!
$$3\uparrow3=27$$
じゃあ次は、3↑↑3を計算しよう。矢印は2つ。
さっきのルールを使えば、こんな感じで、どんどん計算できる。
$$3 \uparrow\uparrow 3 \\ =3\uparrow\{3\uparrow\uparrow 2\} \\ =3\uparrow\{3\uparrow\left(3\uparrow\uparrow1\right)\} \\ =3\uparrow\{3\uparrow3\}$$
矢印1つは?
指数と同じ!
ということでもう少し計算すると….
$$=3\uparrow\{3\uparrow3\}\\ =3\uparrow\{3^3\}\\ =3^{\left(3^3\right)}$$
3の3乗の3乗ですか?
いや、括弧の位置をよく見て欲しい。右側から計算しないといけないね。
ということは?
「3の「3の3乗」乗」だね笑
さんのさんのさんじょうじょう…
ところで、$$3^{\left(3^3\right)}$$って、いくらですか?
右上から計算すると、$$3^3$$は27だ。だから、3を27回かければ答えがわかる。
今、パソコンで計算してみたけど、7625597484987だね。約7兆だ。
え、ちょ、ちょっと待って下さい。
$$3 \uparrow 3$$は27でした。
矢印がたった1つ増えただけで、$$3 \uparrow\uparrow 3$$は7兆になるんですか?
うん。この規則に従う限り、そうなるんだよ。
…すごい!
まだまだ行くよ!ついてこれる?
わ、分かりました…
次は、$$3 \uparrow\uparrow\uparrow 3$$を計算してみよう。
矢印3つ…
いくよー
ちょ、ちょっとまってください!
これ、いつまで続くんですか?
式をよく観察すればわかるけど、1回計算するごとに、右側の数字が1ずつ減っている。
ということは…
あと、約7兆回計算するということだね。
ひいい…
ちなみに計算し終わるとこうなる。
$$3 \uparrow\uparrow\uparrow 3 \\ =3\uparrow\{3\uparrow\cdots\{3\uparrow3\}\cdots\}\\ =\underbrace{3^{3^{3^{3^{\cdots^{3}}}}}}_{7625597484985}$$
これ、なんて読めばいいんですか?
さっきとおんなじように、右から計算していくから、
3の3の3の3の3の3の3の3の3の…[約7兆回繰り返す]…3の3の3乗乗…[約7兆回繰り返す]…乗乗乗乗乗乗乗乗だね。
うっ…
これって、普通の数字で表せないんですか?
残念ながらここまで来ると無理だ。もう我々人類が想像できる範囲の数を遥かに超えているからね。
でも、どれぐらい大きな値なんでしょう?
うーん、じゃあ、ちょっとだけ計算してみようか。
求めたいものは、3を7兆回繰り返している。
もちろん、それを一気に計算するのは無理だから、2回繰り返した時、3回繰り返した時、と順番に見ていこう。
計算するとこんな感じだ。
2回繰り返した時
$$3^3=\underbrace{3^{3}}_{2}=27$$
3回繰り返した時
$$3^{3^{3}}=\underbrace{3^{3^{3}}}_{3}=7625597484985$$
4回繰り返した時
$$3^{3^{3^{3}}}=\underbrace{3^{3^{3^{3}}}}_{4}=$$13977936562527681309559896646703124616867185714628844613218610493124566792222419836786710036624890174398352836749462174145807109860937446818815772630481781891509976498420135226445850602401110872665668356435259774143577540817829762991059756095862516543246391651551731379244565060262368313982222529540094589054767250633874439736500858261886505708770366389709575806903669971654607549244789304908766123566246100546709094305510977174193419488952266631835005266862155392914076984585710261786698505261363620242203150538392981251496934503066019843779769795274029909107444509790396438178312144204755354596137357026021501192347439415435873333448900102002125115829172279011997013417171448587845690981233900535428401876686379846870581199776222211087226500665667128426641550530569449896635397169089597367113624587440661888455010479601169311404402663427892565503508950839503918682358120628518840922040744310090397719712617409269443810135030761640078526172137885825568809698343867775891620054263834108008974538453103154375988659391576898010788111462517183128121194014703906032186077707343152476592070230540941848712354282473397730590298849136481556213925078917318108520855501530858038915198461346693510691334823265962023859658861153643767778486093059453620461497096560975149514036791748871817063217197979441045423343502059614930704085585127107737014458951603114180382825651500438871115574477286626197246535404181292386750579543520700864113107091460687749181562509423724506025087012094633970512601455599050116273408006829077303741475901285608152139168001378556274051847624251291378262982665446974308890042525515495387272098829044823613446945665388359203029833210574366168030382374388190536749872216234756897443197645807855108424212701164905871259249622642866320356924973232131566639708501494340891270865226028421960450869543072863298078912244919422288107274410290564048075216387000845936306219958740430504696783760947111284467567998533433845519595050971567565924885362618071354882063106705537167931326664950534673147863399038577478017034874688877272666563682333015549985929339331107920193676932786552713118630855788491154574630933318168671359177009031854429150994811653797549844020765434478272613430483710316670390864758901816901398536445070281261473066763884619459849373504272430320056344928355776590882207413076872933610812354289638291932443610004469700203410539713295315863354153864339202491392131491434259450806450178170769518635126966078510926242775577833836509111264492907964043674828023712454995489780868659727272775894152479200957778722165284011648558020363815102183253500833097339012170012846935368480549345191684185007242026033272571785665551671416922981347737074910181579977989141908963705896698983651573488285004746014124117492132944286251835090233678135762881068696023813639319613948641315744182961078046370882756306088145961233909022652856240545814724960831082727660744929480734350886020461442838975171232069711517684561026098414996223118432488352724186164349740391037088962114931770153469650278938304627172416680536891565678349888618153887640289954058103163702844762601304546137709073594388777563486607325110139020076936170048199148266215028150406167057339936189529831289467770720367111064904423280468472209729637220811403012036887210898085201718972214964008632781249083120532165687734444450348617249873788497243663635976623528980342683435512305512440113019413812900968050739259766901288946896769399587140061707950987280322735681919273236524399868134658306012992759762418568637297435268586264627295734729043131591482151005276323636263587863058996061845860488644408892327259593098022655527091320946135703943751801736337115603396971803025102022067523192672586467813090626957015545323181328361295417949584610102189679095590151387316182047654314426656479969149626158357103301681413977782723779701590998343321051310750592206721136337…
これのあと10億倍あるけど、まだ表示する?
い、いや、もういいです。すごいですね…
でも、これでも3の3の3の3乗乗乗だよ。たった4回繰り返しただけだ。
じゃあ、3の3の3の3の3の3の3の3の3の…[約7兆回繰り返す]…3の3の3乗乗…[約7兆回繰り返す]…乗乗乗乗乗乗乗乗乗乗乗っていくらだろうって思うと、なんか凄いよね。
もう、なんか言葉も出ないです…
$$3 \uparrow\uparrow\uparrow 3$$っていうのは、それだけ大きな数なんだよ!
では本題に戻ろう。ギネス記録まではまだまだだよ!
えっ…まだあるんですか!!
うん。でも疲れたから、先に結論を言おう。
結論を言うと、ギネス記録に載ってる世界一大きな数は「グラハム数」と呼ばれている。
いま、矢印を使ったタワー表記というのを学習してきたよね。
矢印の数が増えるほど、人間の予想を遥かにこえる勢いで、爆発的に数が増えていくことが分かった。
はい、矢印2つでいきなり7兆倍とか出てきて、矢印3つになると、全く理解できないくらい大きな数が出てきました。
グラハム数もこのタワー表記を利用して表現できる。
まず、$$3 \uparrow\uparrow\uparrow\uparrow 3$$を考える。
矢印4つ…
ここで驚いてはダメだ。
いや、これだけで十分大きいですよ!
落ち着いて聞いて欲しいんだけど、
$$3 \uparrow\uparrow\uparrow\uparrow 3$$は「数」だ。3とか10とか500とかとおんなじ、ある「数」を表している。
…はい。
ということは、
…ということは?
さっきは矢印の「数」が「4」個あるタワー表記を考えたんだけど…
それと同じように、矢印の「数」が「$$3 \uparrow\uparrow\uparrow\uparrow 3$$」個あるタワー表記を考えることができる。
$$3 \underbrace{\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow}_{3 \uparrow\uparrow\uparrow\uparrow 3} 3$$
…
さらにだ、そうしてできた数だけ矢印の数があるタワー表記を考える。
$$3 \underbrace{\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow}_{3 \underbrace{\uparrow\uparrow\cdots\uparrow\uparrow}_{3\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow 3} 3} 3$$
…
これを64回繰り返したものが、グラハム数だよ。
…
もう、全く何がなんだかさっぱりです…
正直、誰もこの数の大きさを理解できないよ。
もし、この宇宙に存在している、星などの全ての物質を集めて、その原子1つ1つを全てインクに変えて、1つの原子が1つの数字を印刷できたとしても、$$3 \uparrow\uparrow\uparrow 3$$までしか書けないんだ。
現実的に考えられるどれだけ大きな数を持ってきたとしても、グラハム数の64回の繰り返しの内の、一番最初に考える数にも及ばない。それぐらい大きな数なんだよ。
すごいですね…
Wikipediaにもいろいろと書いてあるので、見てみるとおもしろいよ!
また読んでみます!
ここまでいろいろと見てきたけど、数学を使えば、感覚的に理解できないものが扱えるんだ。
数学は時に人間の想像を超える。人間が理解できない世界へ、「ここではないどこか」へ、数学は我々を導いてくれるんだ。
ここではないどこか…
数学者ってなんかすごいですね…
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このコンテンツは、数学を楽しく理解してもらうことを目的としているため、数学の持つ厳密性を欠いたり、本来の用語の意味を拡大解釈して利用しているものがあります。よって、「厳密性がない」「その定義はおかしい」などといったご指摘やコメントはご遠慮ください。