- 初期の微分法は、一部おかしいところがありました。
- 導関数は「接線の傾き」を表しています。
- 「極限」は直感的なようで、実は厳密に定める方法があります。
前に、0で割ってはいけないという話をしたのを覚えてるかい
はい!$$1=2$$ のように、おかしな結果が出てきてしまうからでしたね。
ところが、ある事情から積極的に0で割りまくっていた数学があるんだ。
えっ・・・
それってよくないんじゃ・・・。
もちろんよくないんだが、そうすることで得られる効果が絶大だったから、理由は後回しにされた。
ということで、今日は微分の話をしよう。
微分ですか!
でも、微分に「0で割る」って話なんて、あったかなあ・・・
もちろん「0で割る」ことはNGだから、現代の数学とは表現が変わっているよ。
この「0で割りまくってた数学」とは、物理で有名なニュートンの微分の方法だ。
運動方程式で有名なニュートンですね。
彼はなんといっても物理の印象が強いだろうが、微積分の創始者の1人でもある。
数学者でもあったわけですね!
そんな彼の微分の方法というのが、その名も「流率法」!
名前こそ違うが、学校で学ぶ微分法とあまり変わらないよ。
そうなんですか!
じゃあ流率法の話に入っていこうか、と言いたいところだが・・
だが・・?
ちょっとややこしいかもしれないから、今現在使われている普通の微分について確認させてくれ。
はい!
普通の微分
ゆう、$$y=x^2$$を微分するとどうなる?
$$y’=2x$$ ですね。数学Ⅱで勉強しました。
そうだな。高2のときに、こんな公式を見ているはずだ。
関数$$x^n$$の微分
関数$$x^n$$の導関数は、
$$(x^n)’=nx^{n-1}$$
この公式について、$$n=2$$ の場合がさっきの$$y=x^2$$ の微分の話になるわけですね!
そうなる。この計算をすることで導関数$$y’=2x$$ が分かったということになる。
ところで、ゆう、「導関数」って何者なんだろう?
導関数・・関数を微分してできる関数、ということでしょうか。
じゃあ、「関数を微分してできる関数」というのは何者なんだろうか?
うぐっ・・
そう突っ込まれると、すぐには出てこないですね・・
ゆうもまだまだだな笑
微分は「接線の傾き」を知りたいというのが大きな目的だ。
つまり、この場合、$$y=x^2$$上の点$$(x,x^2)$$における接線の傾きが$$2x$$と表されるということを表してるのが導関数の式だ。
とりあえず接点の$$x$$座標を2倍したらその点における接線の傾きが分かるということですね!
この場合はそうなるな。
じゃあ、点$$(a,a^2)$$における接線の傾きは?
? $$2a$$です。
その通りだ。長くなってきたし準備はこのくらいにしとこうか。
ここからは、ニュートンの流率法を使って、$$y=x^2$$上の点$$(a,a^2)$$における接線の傾きを計算してみようか。
はい!
ニュートンの流率法
流率法は、名前の通り、時間とともに座標も変化していくと仮想的に考えることにする。
ほんの少しだけ時間が経過して、点$$(a,a^2)$$もちょっぴりだけ移動する。
この「ほんの少しだけの時間」をοで表す。この文字は「オミクロン」と読む。
それで、$$a$$ が$$a+op$$ に、$$a^2$$ が$$a^2+oq$$ に変わったとしよう。
$$p$$と$$q$$については、移動のスピードと思ってくれ。
横に$$p$$の速さ、縦に$$q$$の速さで移動していて・・
$$op$$と、$$oq$$が「ちょっぴりだけ移動」した距離なんですね!
そういうことになる。
それで、$$x$$に$$a+op$$を、$$y$$に、$$a^2+oq$$を代入する。
さくっと計算していこう。
流率法で$$y=x^2$$の導関数を求める
$$y=x^2$$に$$x=a+op$$,$$y=a^2+oq$$を代入して
$$a^2+oq=(a+op)^2$$
$$a^2+oq=a^2+2aop+o^2p^2$$
式を整理して
$$oq=2aop+o^2p^2$$
ここまでは大丈夫かい?
はい、なんとか・・
それでここからが流率法の変わったところなんだが
$$\displaystyle oq=2aop+o^2p^2$$とあるが、$$o$$は「ほんのすこしの時間」なので、$$o^2$$はなおさら小さい。
なので$$o^2p^2$$は無視できる。
無視できる・・
そうすると$$\displaystyle oq=2aop$$となる。この両辺を$$op$$で割って、$$\displaystyle \frac{oq}{op}=2a$$というのが接線の傾きになっている。
あとは$$a$$の部分を$$x$$にすりかえて、導関数は$$y’=2x$$と分かったわけだ。
へ、へえー。たしかに出てきましたね。
まとめるとこんな感じだ。
どうみても流率法はめんどくさいですね・・・。
まあ、左は公式を使ってるから一瞬だな。
流率法についてききたいんですが、なんで$$\displaystyle \frac{oq}{op}$$が導関数になるんですか?
それは図にすると分かりやすい。
ニュートンはこんな感じで考えている。
あー・・直線の傾きからきているんですね!
ほら、「導関数の定義」に似ているだろ?
・・えーと・・
・・「導関数の定義」がちょっとあやふやです
だいたいいつも使うのは公式だから、「定義」を忘れるというのはよくある話だな笑
思い出しがてら、これも図にしてみようか
図で比較すると良く似ているのが分かると思う。
ああ、思い出しました!
なるほど、両方とも直線の傾きを使ってるわけですね。
そう、根っこのところは二つともおなじだ。
微分ははじめは「魔法」だった?
さて微分はまず流率法として誕生し、運動方程式などの導入が進み、物理学は飛躍的に進歩した。
このおかげでたとえば大砲の弾道計算もできるし、惑星の軌道までもがこれで予測できるようになった。
この「微分」というものがたいへん役に立っているのは明らかだった。
ところがこのニュートンの流率法は実は数学的に「いいかげん」なところがある。
便利だけど理由はよくわからないというのはまるで魔法みたいですね。
そう!なんだかふわふわしていたものだったわけだ。
まあでも便利だったしそのあたりは目をつぶっていたが、厳密な数学者にとって我慢がならない箇所があるんだ。
ゆう、どこだと思う?
やっぱり、$$o^2p^2$$を無視していることじゃないですか?
そう、そこが問題なんだ。
無視できる、ということはつまり$$o^2p^2=0$$ということ。
これは$$op=0$$を意味している。ということは・・?
あっ・・・! 「0で割って」いる・・・!!
そういうことになる。これは大問題だ。
さっきのまとめにちょっと付け加えてみました。こういうことですね!
そうそう合ってる合ってる。
数学的に明らかにおかしいにも関わらず使われていた流率法には批判もあった。
「流率は不可解だ」
「合理主義をかかげている人々が、論理的に重大な欠陥のある解析手法に頼っているのはどういうことだ」
そんな痛烈な批判もあったが、この論理的な問題が克服されるにはなかなか時間がかかった。
が、ついに19世紀に入って、「極限」という概念が出てくることでようやくこの問題が解決する。
limitのことですね!
そう、limitだな。
流率法では、「限りなく小さいもの」を使って式計算をしていたので問題が生じた。
「極限」を使う現代の微分では、式計算をした後に「限りなく0に近づける」ことをするので0で割る問題を避けて通れるわけだ。
なんだか結構単純ですね・・これを思いつくのに長いことかかったんですか。
どちらかというと、「極限」という概念を厳密にすることのほうが大変だったと思っていいかも。
「極限」とか、「限りなく」とか、結構感覚的だろ。
た、たしかに・・。
そういったところを厳密に記述したのが「イプシロン―デルタ(εδ)論法」というんだが・・まあこれは興味があったら調べてみてくれ。
大学でもきちんと数学をやっていくとなると、まず避けられないものだ。
はい!わかりました。
ここまでの話をさくっとまとめとくとこんな感じになる。
数学は「論理性」を大事にしているんだなあと改めて実感できました。
さてと・・じゃあ俺は微分方程式の勉強に戻るかな。
ぽんさん、ありがとうございました!
僕も導関数の定義忘れて公式ばかり使っていたしこれじゃ魔法ですね・・
もっと勉強していきます!