- 無限は数ではありません。なので、極限操作では「=」ではなく「→」を用います。
- 単位円の中に無限に長い線を描くことができます。
- 無限の考え方を使えば、1リットルしか無いビールを、無限の人に分配できます。
数学用語の「無限」がよく分からないんですよ。
確かに、最初はすごくイメージしにくいね。
わざわざ「数学用語」といったのは理由があるの?
無限という言葉は、日常生活でもよく使われますよね。
「無限に広がる」とか「無限の愛を」とか。
ありがちな曲の歌詞によく出てきそうなフレーズですが。
確かにね(笑)
こうやって、日常生活で「無限」という言葉を使うのは支障がないんです。
でも、数学で使うとなると、正直良くわかりません。
極限の問題は解けるの?
問題は解けます。
でも、正直良くわからずに計算方法だけ覚えて解いてる感じです。
本当なら、もう少しちゃんと「無限」のイメージを掴みたいんですけど…
数学で「無限」というものを扱うのは、確かに難しい。そもそも無限は数ではない。
今までの数学では「数」を扱ってきた。もちろん、$$x$$や$$y$$も出てくるが、これはあくまで「数の代わり」だった。$$x$$や$$y$$には、$$2$$や$$\displaystyle\frac{1}{2}$$のような「数」が入る。
でも無限は数じゃないんだ。
例えば$$\displaystyle\frac{1}{n}$$という数を考えてみよう。分母の$$n$$をどんどん大きくしていくことを、「$$n$$を無限大にする」とは言わず「$$n$$を無限大に近づける」という言い方をする。無限は数じゃないから、$$n=\infty$$という操作はできないからだ。
表記方法も、$$\displaystyle \frac{1}{\infty}$$とは書かずに、$$\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}$$という書き方をする。
もちろん、さっきの理由から、$$\lim$$の下を$$=$$にして、$$\displaystyle \lim_{n = \infty}\frac{1}{n}$$と書いてもいけない。
ああ、なるほど、納得です。
だから、$$\lim$$という記号を使うんですね。
確かにはじめはややこしいね。
大学で数学をやっていても、無限はすごく難しい。数じゃないから、扱いにとても困ることがあるんだ。
でもそんな時は、無限を数として扱ってしまうこともある。
「拡大実数」というんだけど、無限も数にして扱ってしまえ!という体系なんだ。
拡大実数を考えると、わざわざ$$\lim$$を使わなくても、$$\infty+\infty=\infty$$みたいな計算ができるんだ。
もちろん、高校数学では拡大実数を扱わないので、この足し算みたいに、無限を数みたいに扱ってはいけないよー!
ときどきぽんさんの話聞いてて思うんですけど、数学者ってなんか適当ですよね。
よくわからない理由で、どんどん新しいものを作っている感じがします。
虚数とかも、ホントは存在しない数なのに、数学者が勝手に作ったんですよね。
うーん。適当と言われれば確かにそうかもしれないが、それなりに、今まで培われれてきた数学の体系を崩さない範囲で、新しいものを定義したりしているんだ。
ココらへんの話は少し難しいんだけどね。
でも、何でもかんでも作りゃいいってものでも無いんだよ。
へぇー。一応ちゃんと考えてるんですね。
無限に長い線は描ける?
では、無限に関するクイズを出そう!
はい。
単位円の内側に無限の長さの線を描くにはどうすればいいでしょう?
…
えっと、まず、単位円というのは…半径が1の円ですよね。
そうだね。そこに、…
分かってます。その中に無限の長さの線を書けばいいんですよね?
そうだね。できそう…?
ちょっと待ってください。
無限に線を引くんだから、線を書き始めた手が止まらないようにすれば。
…
例えば、こんな線はどうでしょうか?
初めに半径$$1$$の円を書きます。書き終わったらちょっとペンを横にずらして、次に半径$$\displaystyle \frac{1}{2}$$の円を書く。そして、またペンをずらして、次は半径$$\displaystyle \frac{1}{4}$$の円を書く。
こんか感じで、「ある円を書き終わったら、次は、今書いた円の半径の$$\displaystyle \frac{1}{2}$$の半径を持つ円を描く」ことを繰り返せば無限個の円を書くことになるので、線を書き始めた手は止まらずに、無限の長さの線が引ける。と。
半径$$1,1/2,1/4,1/8,\cdots$$の円を無限個書き続ける
これぐらいだと、簡単ですね。
簡単すぎる?
せっかくだから、ほんとに無限になるかどうか確かめてみよう!
どう考えても無限になりますよ。結局は無限回円を描くんですから。
まぁそう言わずに。
数学は直感も大切だが、その直感があっているか、確かめることも大切だ。
そんなにしつこいと、なんか嫌な予感がするんですけど。
え!?
ま、まぁ、試してみれば分かるよ!
まずはじめの円、半径$$1$$の円の円周の長さは?
半径が$$r$$の円周の長さは$$2\pi r$$です。だから、半径が$$1$$の円の円周は、$$2\times \pi \times 1=2\pi$$です。
では次の円、半径$$\displaystyle \frac{1}{2}$$の円の円周は?
半径$$\displaystyle r=\frac{1}{2}$$なので、$$\displaystyle 2\pi r=2\times \pi \times \frac{1}{2}=\pi$$です。
では、半径$$\displaystyle \frac{1}{4}$$だ。
えっと、$$\displaystyle 2\times \pi \times \frac{1}{4}=\frac{\pi}{2}$$です。
円周の長さも、半径と同じように$$\displaystyle \frac{1}{2}$$ずつ小さくなってますね。
(半径$$1$$の円の円周)$$=2\pi$$
(半径$$\displaystyle \frac{1}{2}$$の円の円周)$$=\pi$$
(半径$$\displaystyle \frac{1}{4}$$の円の円周)$$\displaystyle =\frac{1}{2}\pi$$
$$\vdots$$
おお、なかなか良い所に目をつけたね!
それでは、円周を足していこう。
簡単にするために、円周をすべて足した値を$$R$$としよう。本当に$$R$$は無限になるかな?
えっと…
$$\displaystyle R=2\pi+\pi+\frac{\pi}{2}+\frac{\pi}{4}+\frac{\pi}{8}+\cdots$$
ですね。
わかりにくいので、括弧でくくります。
$$\displaystyle R=\pi(2+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\cdots)$$
です。
うーん。ここからどうしますか?
等比数列の和の公式を覚えてるかな?
ああ、そういえば括弧の中が、初項$$2$$、公比$$\displaystyle \frac{1}{2}$$の無限等比数列の和になってますね。
もうすこし計算できます。
$$\displaystyle R=\pi(2+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\cdots)=\pi(\frac{2}{1-\frac{1}{2}})=4\pi$$
うーん…嫌な予感が当たりましたね。
$$R$$が無限にならないです。
計算間違えてる感じも…無いですね。
うん。計算はすべてあっている。
無限個の円を書いたら、無限の長さになるという、直感が間違っていたんだ!
これだから無限は難しいんですよね…
納得行かない?
はい。いや、だって、無限に線を書いてるんですよ。無限個の円を描くんですよ。
なのに、その線の長さが有限というのは、やっぱりにわかには信じがたいです。
誰もあたりまえだと思っていた直感が間違っているなんて、確かに容易には信じがたい。
でも、その間違えをちゃんと間違ってるよって指摘してくれるのが数学だ
うーん。かなり難しいですね…
何かいい例はないかな…
そうだ!数学者のジョークとしてこんな話がある。
とあるバーで無限人の客がビールを飲んでいる。
ある1人の客がバーテンダーに向かって、
「ビールを1パイントくれ!」
と言った。1パイントは量の単位で、約500mlだ。
すると、隣にいた客が、
「じゃあ俺はその半分くれ!」
と言い出した。つまり$$\displaystyle \frac{1}{2}$$パイントだ。
その後、バーにいる人たちが次々に、
「じゃあその半分の量をくれ!」
「じゃあ俺はその半分だ!」
とバーテンダーに向かって次々言い出した。
バーテンダーはどうしたと思う?
結局、無限人のお客さんがビールを頼んだということですよね。
注ぐのも大変ですが、何より全員の注文に対応するためには、無限の量のビールが入ります。
無限人が注文してるんですから。
やっぱりそう思う?
いや、むしろその間違いを期待してたんだけど…
これも間違ってるんですか?
では、話の続きをしよう。
実はそのバーテンダーは数学が得意だった。
「おまえらみんなバカヤローだな」とだけいって、最初の1パイントのビールを頼んだ人に、2パイントのビールを渡したんだ。
これで全て解決した。
えっ…!
全然意味がわからないんですけど…どういうことですか?
お客さんはそれぞれ、自分の注文の次に注文した人のグラスに、自分が受け取ったビールの半分の量を注いだんだよ。
はじめの人は、2パイントもらって、1パイントを次の人に注いだ。はじめの人は望み通り、$$2-1=1$$パイントのビールを得た。
次の人は、1パイントもらって、$$\displaystyle \frac{1}{2}$$パイントを次の人に注いだ。その人も望み通り、$$\displaystyle 1-\frac{1}{2}=\frac{1}{2}$$パイントのビールをもらった。
また次の人も、$$\displaystyle \frac{1}{2}$$パイントをもらって、$$\displaystyle \frac{1}{4}$$パイントを次の人に注いだ。余ったのは$$\displaystyle \frac{1}{2}-\frac{1}{4}=\frac{1}{4}$$パイント。これも望み通りだ。
これを無限回繰り返すと、無限人の人がそれぞれ望んだ量のビールが飲めるんだ。
無限人がビールを注文してるのに、必要なビールの量は、初めの2パイントで足りるんですね。
なんだかさっきよりは、多少わかったような気がします。
無限回円を書いても、その長さは有限。
ちょっとだけイメージが湧いてきました。
おお、それは良かった!
で、結局どうすれば単位円の中に無限の長さの円が書けるんですか?
そうだな、すっかり忘れていた。
ではヒントを出そう。これを基に考えてみてねー!