- 対偶は数学で習う言葉なので、日常生活で使うときは要注意です。
- 対偶を使えば、カラスが黒いことを、カラスを見ずに証明することができます。
ぽんさん。ちょっと質問!
どうしたの?
えっとね、数学の授業で「対偶」って習うじゃん。
うん。確か、数Aで習うのかな?
そうそう。それでね、休み時間に友達と、「かわいい子には彼氏いるよね」っていう話をしてたんだけど、そしたらその友達が、対偶は「彼氏いない子はかわいくない」だね、って言い出したんだよ。
でも、彼氏いない子でもかわいい子はいるし…っていう話をしてたら、もう訳わかんなくなっちゃって!
なるほど…(笑)
まず「対偶」という考え方は「数学の授業」で習うよね。社会や道徳の時間では習わない。だから「対偶」という考え方は「数学の世界」で使われる考え方だ。
あかりも知ってると思うけど、数学の世界はとても厳密だ。それに比べて、私たちが暮らしている「日常の世界」はあいまいなんだ。
だから、厳密な数学の世界で使われる「対偶」という考え方を、あいまいな日常の世界で使うと、少し変に感じたりする。
うーん…なんかよくわからない。
対偶ってなんだったか、分かる?
えっと、「$$p$$ならば$$q$$」の対偶が、「$$q$$でないならば$$p$$でない」だよね。
$$p$$とか$$q$$ってなに?
え?えっと…なんだっけ?
教科書の言葉を使うと、$$p$$や$$q$$は「条件」だったね。条件というのは、なにか文字$$x$$を含んでいて、その$$x$$に具体的な値を入れると、真偽が定まる文のことだった。例えば、『$$x>1$$』とか、『$$x$$は偶数』とか。
あ!そんな感じだったね!
簡単のために、『$$p$$でない』を $$\overline{p}$$ と、『$$p$$ならば$$q$$』を $$p \Longrightarrow q$$ と書こう。
$$p,q$$を$$x$$の条件とすると、
$$p \Longrightarrow q$$ の対偶は、 $$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$
大切だったのが $$p \Longrightarrow q$$ と $$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$ の真偽が一致することだった。
具体例、なにか言える?
「$$x$$が偶数$$\Longrightarrow x^2$$は偶数」というのが正しいから、「$$x^2$$が奇数$$\Longrightarrow x$$は奇数」も正しいってことだよね。教科書に乗ってた例だけど…
そうそう!わかってるじゃん!
対偶の性質
$$p,q$$を$$x$$の条件とする。
$$p \Longrightarrow q$$ が正しい(真である)ならば
$$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$ も正しい(真である)
では、あかりの主張を整理しよう。「かわいい子には彼氏がいる」を、条件を使って書くとどうなるかな?
「ある人がかわいいならば、その人には彼氏がいる」と考えると分かりやすいかもしれないね。
えっと、$$p$$を「$$x$$はかわいい」、$$q$$を「$$x$$には彼氏がいる」、とすれば、$$p \Longrightarrow q$$だよね。
完璧だよ!
で、なにがよくわからないんだっけ?
えっとね、みんな「かわいい子には彼氏いるよ!」っていうじゃん。これは正しそうなのに、でも「彼氏がいない子はかわいくない」って言うのは、間違ってるんじゃないかなーって思うんだ。
元の文はあってるのに、その対偶の文は間違ってるって、やっぱりよくわからないよ…
あかりの主張
$$p$$を「$$x$$はかわいい」、$$q$$を「$$x$$には彼氏がいる」とする。
$$p \Longrightarrow q$$は正しそう。
$$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$は間違っている。
元の文は正しそうなのに、その対偶が間違ってるのはおかしい!
***日常言語バージョン***
『かわいい人には彼氏がいる』は正しそう。
『彼氏がいないならかわいくない』は間違っている。
元の文は正しそうなのに、その対偶が間違ってるのはおかしい!
そこが、数学の世界の「対偶」を、無理に日常生活で使ってしまったから生じる問題だよ。
今あかりは、『かわいい子には彼氏がいる』っていう文に対して、「正しそう」って言ったよね。正しそうじゃなくて「絶対に100%正しい!」って言える?
えっ…でも、みんな言ってるよ?
しかも、周りのかわいい子たち、みんな彼氏いるし…
残念ながら、数学では「みんなが言ってるから」という理由で正しいことにはならないよ。もし世界中の人が一斉に、1+1は3だ!といっても、やっぱりそれは間違ってるし、1+1は2だ。
あと、もし、あかりが知ってるかわいい子全員に彼氏がいたとしても、あかりの知らない世界中の女の子に、この主張が成り立つかどうかもわからない。
この『かわいい子には彼氏がいる』という文は、もし一人でも、かわいいけど彼氏がいない人がいたら、間違い、つまり「偽」になってしまう。
おそらくそういう人はいるだろうから、その対偶「彼氏がいないならかわいくない」というのも誤りだ。
数学的な主張
$$p$$を「$$x$$はかわいい」、$$q$$を「$$x$$には彼氏がいる」とする。
$$p \Longrightarrow q$$は間違っている。
よって、その対偶$$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$は間違っている。
***日常言語バージョン***
『かわいい ならば 彼氏がいる』は間違ってる。
よって、その対偶『彼氏がいない ならば かわいくない』は間違っている。
あっ、そうか。日常では正しいと思ってることでも、しっかり厳密に考えてみると、間違ってる場合があるってこと?
そう、その通り!「対偶」は数学の証明のように、厳密な議論で使うルールだ。中途半端な知識で日常生活に使ってしまうと、間違った考えにたどり着いてしまうこともあるので、注意しないといけないよ。
はーい。
せっかくなので、対偶の話をもうちょっとだけしよう。
高校の数学で「対偶」を勉強する一番の理由は、証明に使えるからだ。
対偶を使った証明法っていうの、授業でやった気がする!
じゃあまず、超簡単な問題を使って $$p \Longrightarrow q$$ の証明法を確認してみよう。
例えば、こんな問題できるかな?
問題:$$x=3 \Longrightarrow x^2=9$$であることを証明せよ。
えっ、こんなの当たり前じゃないの?
うーん。当たり前といえばそうかもしれないけど、きちんと手順を踏んでみよう。
$$p \Longrightarrow q$$ を証明する1つの方法は、$$p$$が正しいことを仮定して、$$q$$となることを示せばいい。
これを「証明法(1)」と呼ぼう。
$$p \Longrightarrow q$$ の証明法(1)
問題:$$p \Longrightarrow q$$ であることを証明せよ。
【証明】
$$p$$を仮定する。
$$\vdots$$
$$q$$である。
よって、 $$p \Longrightarrow q$$ である。(証明終)
なるほど。この証明に当てはめればいいんだね!
問題:$$x=3 \Longrightarrow x^2=9$$であることを証明せよ。
【証明】
$$x=3$$を仮定する。
両辺を2乗すると、$$x^2=9$$である。
よって、$$x=3 \Longrightarrow x^2=9$$である(証明終)
そう。いい感じ!
でも、この $$p \Longrightarrow q$$ は違う方法でも証明できる。それが対偶だ。
これを「証明法(2)」と呼ぶことにする。
$$p \Longrightarrow q$$ の証明法(2)
問題:$$p \Longrightarrow q$$ であることを証明せよ。
【証明】
初めに $$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$ を示そうと思う。
$$\overline{q}$$ を仮定する。
$$\vdots$$
$$\overline{p}$$ である。
よって、 $$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$ が示される。
対偶の性質より、 $$p \Longrightarrow q$$ である。(証明終)
なるほど!まずは $$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$ が正しいということを証明すれば、対偶の性質から、 $$p \Longrightarrow q$$ が正しいことが分かるんだ!
そう、その通りだよ!
数学で $$p \Longrightarrow q$$ であることを証明しなさい。という問題が出た時に、正攻法で証明しようとしても、なかなか難しい時がある。
そんな時でも $$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$ を示せれば、 $$p \Longrightarrow q$$ を示したのと同じことになる。
$$p \Longrightarrow q$$ でも、 $$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$ でも、どっちでも簡単な方を証明しちゃえばいいってことだね!
そうそう、対偶を使えば、証明の書き方の選択肢が広がるってことだね。
これを使えば、難しい証明問題も簡単になるかもしれない。証明問題が嫌いな人は、覚えておくといいよ!
はーい。
そういえば、対偶を使うとちょっとおもしろいことが起こる。それが「ヘンペルのカラス」というお話だ。
カラス?
うん。カラスに関連したお話で、ドイツの哲学者であるカール・ヘンペルが提唱した議論だ。
ところで、カラスって何色?
えっ、黒でしょ?
本当に?
…また変なことたくらんでるでしょ?
変なことじゃないよ(笑)
では、あかりは「地球上に存在する全てのカラスは黒い」ということを、どうやって証明しますか?
ほら〜!知らないよそんなの!(笑)
でも、これをきちんと証明しないと、「カラスは黒色である」ということが言えないよ。
そんなの、全てのカラス捕まえて、全部調べないと無理だよ!
うん。それも1つの証明方法だ。
え?1つの方法?
他にも「地球上の全てのカラスは黒い」ということを証明する方法があるの?
あるよ!
しかも、その方法ではカラスを1匹も調べる必要がない。
いやいや、何言ってるのぽんさん。さすがにそれは無理だよ。
カラスを1匹も調べないで「カラスは黒い!」なんて言えるわけないよ!
そう思う?では、やってみよう。
今、示したいことは、$$p$$:「$$x$$はカラス」、$$q$$:「$$x$$は黒い」だよね。
$$p$$:「$$x$$はカラス」、$$q$$:「$$x$$は黒い」とする。
問題:$$p \Longrightarrow q$$を証明せよ。
うん。ここまでは分かるよ。
あかりが言った、全部のカラスを捕まえて黒いことを調べる方法は、さっき話した「証明法(1)」だ。
以下の証明は、カラス研究者が頑張って、世界中のカラスの色をすべて調べて、全て黒色だったことを前提として読んで欲しい。
$$p$$:「$$x$$はカラス」、$$q$$:「$$x$$は黒い」とする。
$$p \Longrightarrow q$$を証明せよ。
【証明法(1)を使った証明】
$$p$$を仮定する。
仮定より、$$x$$はカラスだから、
カラス研究者の努力によって、$$x$$は黒い事がわかる。
よって、$$q$$である。
つまり、 $$p \Longrightarrow q$$ である。(証明終)
なんか、当たり前すぎてよくわからない。
それに対して、対偶を用いた「証明法(2)」でも、証明することができる。
以下の証明は、暇な人が「世界中の黒くないものを集めたら、その中にカラスはいなかった」ということが分かってることを前提として読んで欲しい。
$$p$$:「$$x$$はカラス」、$$q$$:「$$x$$は黒い」とする。
$$p \Longrightarrow q$$を証明せよ。
【証明法(2)を使った証明】
初めに $$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$ を示そうと思う。
$$\overline{q}$$を仮定する。
仮定より、$$x$$は黒くない。
暇な人の努力によって、$$x$$はカラスではないことがわかる。
よって、$$\overline{p}$$である。
つまり、 $$\overline{q} \Longrightarrow \overline{p}$$ がわかる。
対偶の性質より、 $$p \Longrightarrow q$$ である。(証明終)
この証明の凄いところは、カラスを調べてないんだよ。カラスの代わりに、世界中の黒くないものを調べている。
世界中の黒くないものを調べれば、カラスが黒い事がわかる。
まって…なんかやっぱりよくわからないよ。
うーん。
例えば、あるクラスのAさんが、眼鏡をかけているかどうかを調べたいとしよう。
あかり、どうする?
え、Aさん呼んでくればいいんじゃないの?
うん。それが証明法(1)であり、カラスで言うと、世界中のカラスを調べる方法だ。
証明法(2)ではどうするかというと…
あ!そうか!
「メガネかけてない人集合!」ってすればいいんだ!
そう!その通り!
Aさんがいるクラスで、眼鏡をかけていない人を全員集める。そしてその中にAさんがいなければ、Aさんは眼鏡をかけていることが分かる。
Aさんを直接見てないのに、Aさんが眼鏡をかけてることが分かるんだ!なんか凄い!
さっきのカラスの例も同じで、「世界中の黒くないもの集合!」といって、集合させてみる。
多分そんなの出来ないけどね(笑)
まあ、仮の話だからね。暇な人が頑張ったんだよ。
そして、その集合の中にカラスがいなければ、カラスを調べなくてもカラスは黒い!ということが分かるんだ!
「$$x$$はカラス $$\Longrightarrow$$ $$x$$は黒い」 の対偶は、
「$$x$$は黒くない $$\Longrightarrow$$ $$x$$はカラスではない」
「$$x$$はAさん $$\Longrightarrow$$ $$x$$は眼鏡をかけている」 の対偶は、
「$$x$$は眼鏡をかけていない $$\Longrightarrow$$ $$x$$はAさんではない」
まとめると、こんな感じかな?
あるものを見なくても、あるものの性質が分かる…
なんか、対偶って凄いね…!